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今回製作したのは、和紙人形『あなたの鍵』。
手には一本の鍵。背中には小さな鍵穴。鍵を持っているのに、自分では開けられない。そんな少し不思議な姿をした人形です。
製作のきっかけは、イソップ寓話『キツネとツル』。
この物語は、キツネがツルを食事に招き、平たい皿に入れたスープを出すところから始まります。くちばしの長いツルはうまく食べられません。後日、今度はツルがキツネを招き、細長い口の壺に食事を入れて出します。すると、キツネも食べることができませんでした。
相手のことを考えず、自分に都合のよい方法を押しつけること。その立場が逆転するこの物語は、相手の立場に立って考えることの大切さを伝える寓話として知られています。
この話をきっかけに、私は人と人との関係、思いやりとは、と考えました。
今回は、段ボールで作る骨組みから、顔や目の製作、衣服の色選び、自作した鍵、木製の台座まで、完成するまでの工程を紹介します。

今回のラフは実にラフな仕上がり。
鍵と鍵穴、シンプルファッション、そのくらいしか決めずにスタートしています。
手を動かしつつ、徐々に細部を固めていきました。
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1. 段ボールで骨組みを作り、和紙を重ねる
まずは、人形の頭部から作っていきます。
頭の大きさは、鶏の卵くらい。片面段ボールを割いて、ざっくりと骨組みを作ります。

骨組みがある程度できたら、細くちぎった和紙をひたすら貼り重ねていきます。
言葉にするとあっという間ですが、この作業は数時間、場合によっては数日続きます。大きさや形によっても必要な時間は変わります。
和紙を少しずつ重ねながら、立体の形を整えていく作業です。紙の厚みや繊維の重なりによって、少しずつ輪郭ができていきます。
顔の表情を作り込んでいく段階では、目を後から取り付けるため、眼窩を開けたまま製作します。
2. 和紙で目を作る
顔の造形ができたら、次は目を作ります。

目の土台には、ビー玉やピンポン玉など、作品の大きさに合う球面を利用します。丸く切った和紙を数枚貼り重ねて、目の形を作っていきます。
黒目を描き込む前の状態は、白いコンタクトレンズのような形です。

今回の作品は、全体を淡い色味に仕上げたいと考えていました。
そこで、顔には桃肌色と生成りの和紙を組み合わせています。頬など血色を感じさせたい部分には桃肌色を使い、それ以外の部分には、その上から生成りの和紙を重ねました。
生成りの和紙から下の色が透けて見えるようにすることで、色を均一に塗るのとは違った、やわらかな色合いを目指しています。
目の虹彩と黒目にも、顔の色に合わせた淡い色を選びました。アクリル絵の具で色をつけ、左右の目線を確認しながら、顔の裏側から固定します。

正面から見ると整った顔も、裏側には骨組みや和紙の重なりが見え、いかにも張りぼてらしい姿をしています。
この表側と裏側の対照的な表情も、和紙人形を作るうえで好きなところです。完成すると見えなくなってしまうのが、少し残念でもあります。
とはいえ、いつまでも開けておくわけにはいきません。目を固定したら後頭部を閉じ、首から下の製作へ進みます。
3. 頭・胴体・足のバランスを決める
人形の体を作るとき、まず基準になるのは頭の大きさです。
頭に対して胴体をどのくらいの長さにするか、足をどのくらい伸ばすか。全体の身長が決まったら、肩幅や腰回り、太ももなどに肉付けしていきます。

このバランスを決める作業は、とてもデリケートです。
頭・胴体・足の比率によって、年齢や性別の印象が何となく決まり、人形全体の雰囲気も大きく変わります。ほんの少しの違いでも、仕上がりの印象は変わってくるため、慎重に形を整えていきます。
体のシルエットがある程度定まったところで、ようやく両手を作ります。
肘から先を細かく作り込み、二の腕は紙片を使って補いながら、腕全体の長さを調整します。顔と同じように、桃肌色と生成りの和紙を織り交ぜながら、指先まで形を整えました。
これで人形本体が完成です。
4. ワンピースの色を選ぶ
人形本体ができたら、次は衣服です。
今回は、シンプルなワンピースを着せることにしました。ただ、色選びには少し悩みました。
候補は赤系と青系。色数を抑えた作品なので、ワンピースの色は全体の印象を左右します。衣服は人形の中でも面積が大きく、色が変わるだけで雰囲気もかなり変わるからです。
静かで落ち着いた印象に仕上げたい。一方で、作品には人の優しさというテーマも含まれています。
いろいろ考えた結果、今回は温かみのある、えんじ色の和紙を選びました。

髪型や服装は、できるだけシンプルにしています。
この作品で目に留めてほしいのは、手にした鍵と、背中にある鍵穴。その二つが自然と印象に残るよう、装飾を増やしすぎないことを意識しました。
5. 編み針と木材で、鍵を自作する
ここで、人形が手にしている鍵を作ります。

最初は、既製品のアンティークキーを使うことも考えました。
ただ、和紙人形と組み合わせたときの一体感や、素材の質感をそろえたいと思い、自分で作ることにしました。
鍵の軸には、編み物に使う棒針を短くカットしたものを使っています。やすりで太さを調整しながら、実際の鍵の写真をいくつも参考にして、自由にデザインしました。
輪っかの部分と、鍵の先端にある角ばった部分は、柔らかく加工しやすい木材※を削って作っています。輪っかのすぐ下にある凹凸は、糸を巻きつけて表現しました。
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異なる素材を組み合わせた鍵は、そのままだとパーツの継ぎ目が目立ちます。そこで、まず下地用の塗料※を全体に塗り、表面を整えてから塗装します。
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仕上げには、金属らしい色味のアクリル絵の具を使いました。
目指したのは、長い時間を経て黒ずみ、ところどころ摩耗した古い鍵の雰囲気です。
スポンジに少量の明るい銀色を取り、鍵の凸部分に軽く叩くように色をのせます。摩擦によって表面の塗装が薄れ、下の金属が見えてきたような質感を表現しました。
見た目にはずっしりとした重さを感じる鍵ですが、実際には木材が中心なので、手に持つと軽い仕上がりです。
こうして作った鍵を、人形の手に組み込みます。
6. 手ノコで木製の台座を作る
人形と鍵ができたら、最後は台座です。
台座も木材から切り出して作りました。

今回は、きれいな円柱形の台座にはしませんでした。
手ノコで円形に切った板を3枚重ねた、少しラフな形です。手作業で円形を切り出すのは難しく、どうしても輪郭に凹凸が残ります。
その不揃いな部分を無理に整えるのではなく、かえって作品に似合う表情として生かすことにしました。
台座に開けた二つの穴は、人形を固定するためのダボ穴です。人形の足裏にも同様の穴を開け、軸となるパーツを差し込んで固定します。見た目だけでなく、安定して飾れるようにするための工夫です。
7. 人形を中央からずらして配置する
人形を台座に固定するとき、もうひとつ考えたことがあります。
それは、人形を台座の中央から少しずらして配置することです。

この作品には、手に鍵があり、背中には鍵穴があります。鍵を持っているのに、自分では開けられないという姿です。
人は、自分に必要なものをすべて、自分ひとりで持っているわけではないのかもしれません。
誰もが誰かを必要としているのなら、誰かが先に手を差し出すことも必要なのではないか。そんなことを考えながら、この人形を形にしました。
台座の中央から人形をずらしたのは、そこに、まだ姿の見えない誰かの気配を残したかったからです。
細長い台座にして余白を大きく取る方法や、足跡などの痕跡をつける方法も検討しました。けれど、今回は気配がささやかに伝わる表現を選びました。
人形のそばに生まれた余白も、作品の一部です。その場所に誰を思い浮かべるかは、見る方それぞれに委ねています。
8. 和紙人形『あなたの鍵』の完成

素 材/和紙・色鉛筆・木材
こうして、和紙人形『あなたの鍵』が完成しました。
手には一本の鍵。背中には小さな鍵穴。
イソップ寓話『キツネとツル』をきっかけに、人と人との関係について考えた作品です。
鍵は既製品を使わず、人形の質感に合わせて自作しました。木材や編み針など、異なる素材を組み合わせながら、古びた金属のような表情に仕上げています。

背中の鍵穴と、手にした鍵。どちらも作品の大切な要素なので、髪型や衣服はできるだけシンプルにまとめました。
作品を作るときには、形や色、素材の組み合わせだけでなく、どこに余白を残すかも考えています。
『あなたの鍵』では、人形を台座の中央から少しずらすことで、そこに誰かがいるような気配を残しました。
ふと目に留まったとき、誰かのことを思い出したり、自分自身のことを考えたり。
そんなふうに、見る人の中で静かに物語が生まれる作品になればと思います。
この作品は、minne・Creemaにて販売・公開中です。
気になった方は、ぜひ作品ページも覗いてみてください。
作品販売ページはこちら
→ minne https://minne.com/
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