頭の中に浮かぶもの」|思考が形になる前を表現した創作人形

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人が何かを考えているとき、
その思考を目に見える形にしたら、どんな姿になるのだろう。

何かを思いつくとき、頭の中ではいったい何が起きているのだろう。

ふと浮かんだイメージ。
どこかで見たもの。覚えていた言葉。
数字や図形、知識の断片。
そして、まだ言葉にも形にもなっていないもの。

私が作品のアイデアを思いつくときの頭の中を、人の形にしてみました。

頭上から、シャボン玉のような球体が次々と立ち上がっていく。

人が「ひらめいた」とき、頭の上で電球がピコンと点灯する表現があります。

この作品は、その電球が点くほんの一瞬前。

まだ「ひらめき」として意識される前の、思考が浮かび上がってくる瞬間をイメージしています。

まず、頭の中の景色を描いてみる

最初のラフスケッチでは、すでに作品の方向性はいつもよりはっきりしていました。

思考を表す球体を頭上に浮かべた人形のラフスケッチ

頭の上には、シャボン玉のようなものがいくつも浮かんでいる。

晴れた日に飛んでいるシャボン玉のように、光を受けてキラキラと色を反射する。

目線は上へ。

何かを見つめているというより、外の世界を見ることから少し離れて、頭の中に浮かんでいるものへ意識が向いている状態です。

この「光を反射するシャボン玉」というイメージは、最初から最後まで、この作品の軸になりました。

シャボン玉の光を、瞳の中に

今回使用したのは、未漂白の生成りのロクタ紙です。
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普段の作品で使う和紙とは少し違い、ロクタ紙には独特のカサリとした手触りがあります。紙の繊維が重なった質感と、適度な弾力があるところも,

この素材の面白さです。

今回は、あえて色のついた紙を選びませんでした。

白から淡いベージュの繊細な紙肌を背景にして、そこに光を反射する色だけを浮かび上がらせたかったからです。

まずは瞳の色をいくつか試しました。

ロクタ紙で作った人形の目のパーツと色鉛筆

焦茶、オレンジ、水色、黄色……。

いろいろな組み合わせを試した結果、この作品のテーマカラーになったのが、焦茶をベースにしたターコイズとレモンイエローでした。

透明感がありながら、どこか太陽の存在を感じさせる2色。

シャボン玉が光を受けたときの、あの一瞬の色に近い気がしました。

ただ、この2色はコントラストが強いので、色を増やしすぎたり、濃くしすぎたりすると作品全体の繊細さが失われます。

そこで、焦茶の瞳の中に、ごく僅かな差し色としてターコイズとレモンイエローを入れました。

「色を見せる」のではなく、光が当たったときに、ほんの少しだけ色が見えるくらいに。

ロクタ紙の人形のまつ毛も六太紙の繊維を使って製作

まつ毛も瞳と同系色の、少し明るい茶色にしています。

まつ毛はロクタ紙の繊維を引っ張り出して作ったものです。

その向きにも少しこだわりました。

上向きにしっかりとボリュームを出すことで、目線が自然に上へ誘導されるようにしています。

手は、ワイヤーから作る

手は、ワイヤーで骨組みを作り、その上から紙を貼り重ねて形を作ります。

ロクタ紙の人形の腕と手を製作。針金の骨組み

小さいサイズの人形では芯材も紙で作っていましたが、このくらいのサイズの時はワイヤーを使うことが増えました。

指一本一本の立体感を出しやすく、指の曲げ方やポーズも細かく調整できるからです。

今回使ったのは、直径1.0mmの銅ワイヤー
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ある程度の強度がありながら、手で曲げて調整できるところが扱いやすく気に入っています。

頬杖のポーズは、骨格から考える

両手が完成したところで、頭と上半身、両腕を骨組みでつないでいきます。

ロクタ紙で作った人形の頭部と手足のパーツを並べた製作途中の様子

今回の頬杖のポーズは、思っていた以上に難しいものでした。

表面の形をきれいに作ることより、まず骨格の位置関係を合わせる必要があります。

腕の位置。
肘の角度。
手のひらの向き。
頭との距離。

どれかひとつがずれるだけで、全体のバランスが崩れます。

調整しては、正面から見る。
横から見る。
斜めから見る。

また調整する。

人形は平面ではないので、ひとつの方向から見て良くても、別の角度から見ると違和感が出ることがあります。

こういう地道な確認を何度も繰り返しながら、少しずつポーズを固めていきました。

球体は、設計図なしで作る

この作品で最も重要な構成要素のひとつが、頭上に浮かぶ球体です。

ロクタ紙の人形の頭の上に球体を取り付けていくのは完全アドリブである

球体の大きさや位置は、すべてアドリブで決めました。

設計図はありません。

全体の姿を想像しながら、ひとつ作っては置いてみる。
少し離れて眺める。
位置を変える。

それを繰り返して決めていきました。

作品の中でもかなり重要な部分を、最後まで完全にフリーハンドで決めていくので、作っている本人にも最終形がはっきりとは分かりません。

スリリングですが、ここが面白いところでもあります。

球体そのものも、道具を使わず、手の感覚だけで真球を目指して作りました。

もちろん、完全な球にはなりません。

少し歪んでいて、不完全で、不安定。

でも、考えというものも、最初から完璧な形をしているわけではありません。

ぼんやりしていたものが、少しずつ輪郭を持っていく。

だから、この不完全さも含めて、思考の形なのではないかと思いました。

球体の中に、何を入れるか

頭上の球体には、それぞれ違うものを閉じ込めることにしました。

球体と思考の断片を組み合わせた人形作品のラフスケッチ

入れたのは、

  • 素数
  • 『創世記』第1章1〜3節
  • いろはにほへと
  • 楔文字
  • 天の南極の星図
  • 光合成の反応式
  • まだ形になっていない思考

です。

一見すると、互いに何の関係もありません。

数学。
宗教。
文字。
天文学。
生物学。

でも、私の中ではどれも同じ「思考の材料」です。

人は何かを思いつくとき、ひとつの情報だけを取り出して考えているわけではないのかもしれません。

いつか見たもの。
昔覚えた言葉。
意味を理解している知識。
意味すら意識していない記憶。

そういうものが自分の知らないところでつながって、ある瞬間に「思いつき」として浮かんでくる。

そんなイメージでした。

球体の中に入れる情報はプリンターでロクタ紙に印刷し、それを少しずつ球体へ移植していきました。

これは、かなり気の遠くなる作業でした。

文字というものは、それだけで人の視線を集めます。

今回は「文字を読ませたい」わけではありません。

あくまで、思考を構成している断片として存在してほしかった。

そのため、できるだけ薄く。

かろうじて読めるもの、あるいは、もう読めないくらいのもの。

意味と形の境界にあるような状態を目指しました。

耳をなくした理由

製作を進める中で、耳はつけないことにしました。

この作品にとって、聴覚は必要のない要素だったからです。

外から入ってくる情報を受け取るというより、内側にあるものへ意識が向いている。

この子は何かを聞いているのではなく、何かを見ているのでもない。

自分の中で、まだ形になっていないものを追っている。

そんな状態です。

私たちが自分で「考えている」と認識できることや、言葉や行動として表に出てくるものは、脳の中で処理されている膨大な情報のほんの一部なのではないか。

この作品を作りながら、そんなことを考えていました。

最後まで決まらなかった台座

人形を作りながら、最後まで決めかねていたものがあります。

台座です。

この作品は、白から淡いベージュの紙肌、繊細な立体感、瞳の色、そして頭上の球体と、上半分に見せたいものが集中しています。

だからこそ、台座まで柔らかな形にすると、全体が少し甘くなりすぎる。

そこで考えたのが、「丸」と「四角」の対比でした。

頭や球体など、作品そのものには柔らかな「丸」が多い。

ならば、足元は直線的な四角にする。

丸いものを、四角いものが受け止める。

その方が、作品全体のシルエットが引き締まりそうでした。

そこで、ホームセンターへ木材を探しに行きました。

木材について特別詳しいわけではありません。

2mある建材用の木材を見て回っても、どうもしっくりこない。

そこで端材コーナーまで歩いていき、そこでひとつだけ、目に留まったものがありました。

ホームセンターで選んだ木材。おそらく米末(ダグラスファー)、密度の詰まった綺麗な木肌。

ずしりと重く、密度の詰まった木肌。

年輪がきれいに詰まっていて、ひび割れも節もない。

木目も美しい。

「これだ」と思いました。

10cm角にお店でカットしてもらい、自宅で表面をやすりで研磨。

焦茶色のアクリル絵の具でトーンを落とし、最後にラナパーを布で擦り込みました。

しっとりと落ち着いた、作品を支える台座になりました。

AIで調べてみると、米松(ダグラスファー)ではないかという結果でした。

かなり硬い木材だったので、表面に残っていたノコ痕を消して滑らかにする作業は、なかなかの重労働でした。

今回、お店で機械でカットしてもらいましたが、これを自宅で手ノコで切っていたら……と思うと、ちょっとゾッとします。

思考が形になる、その手前

こうして完成したのが、今回の作品です。

頭上に思考の球体が浮かぶロクタ紙の創作人形「頭の中に浮かぶもの」
頭上に思考の球体が浮かぶロクタ紙の創作人形「頭の中に浮かぶもの」(俯瞰図)
木製台座に佇むロクタ紙の創作人形「頭の中に浮かぶもの」の完成作品
大きさ/幅10cm 奥行き10cm 高さ21cm
素 材/ロクタ紙・色鉛筆・木材

頭上に浮かぶ球体には、いろいろな知識や記憶の断片。

その中には、すでに意味を持っているものもあれば、まだ意味を持たないものもあります。

そして、一番上の小さな球体に入っているのは、まだ形になっていない思考

それは、これから何かになるかもしれないし、何にもならないかもしれない。

私自身、作品のアイデアを思いついたとき、その瞬間に頭の中で何が起きているのかは分かりません。

ただ、あとから振り返ってみると、以前どこかで見たものや、覚えていた言葉、知識、経験、偶然目にしたものなどが、いつの間にかつながっていることがあります。

自分で「考えた」と感じているものは、実はそのずっと前から、意識の外側で何かが動き始めていたのかもしれない。

この作品で表現したかったのは、ひらめきそのものではなく、ひらめきになる直前の時間です。

まだ名前のないもの。

まだ意味のないもの。

まだ形のないもの。

それらが頭の中でふわふわと漂い、いつかひとつの形になっていく。

私にとって作品を作るということは、もしかすると、その「まだ形になっていないもの」を拾い上げて、目に見えるところまで連れてくることなのかもしれません。

『頭の中に浮かぶもの』

これは、そんな思考の始まりを、人の姿にした作品です。

この作品は、minne・Creemaにて販売・公開中です。
気になった方は、ぜひ作品ページも覗いてみてください。

作品販売ページはこちら
→ minne https://minne.com/items/45613128
→ Creema https://www.creema.jp/item/20928137/detail

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